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「そうか、そんな辛いことがあったんだね」
と先生は穏やかな声でそういった。
僕はなかなか就職がきまらず落ち込んでいた。何社も落とされていた。
ようやく最終面接にこぎつけ、今度こそ、と思った会社から、今日あっさりとした文面の不採用通知がとどいた。
自分に価値がないような、社会で必要とされていないように感じていた。
「自分はダメな人間だ」と自信をなくしていった。
「どうせ僕なんて・・・」と思いつつ枯葉が落ちる道をうつむきながら歩いていたとき、偶然先生に会ったのだ。
思いつめていた顔をした僕を先生は気遣ってくれたのか、先生は「ちょっと付き合え」と食事にさそってくれた。
秋の焼き魚のかおりのする居酒屋で、僕は、これまでの就職活動のことを先生に話していた。
「こう考えてみてはどうだろう。出来事と自分との間にはスペースがあると。辛い出来事が起こったとき、例えば今の君のように、就職がうまくいかないとき、自分自身が否定されるような感覚に陥るかも知れない。
でも、その出来事はただの出来事で君自身ではない。君自身が、否定されたわけではない。
出来事それ自体は、ニュートラルだ。それに意味を与えているのは、自分自身なんだよ」
ビールジョッキを傾けて、一呼吸を置いて先生は続けた。
「普通、人は、ある出来事から無意識に意味を与え、感情を持つ。そして、自分が感じていることが変えられないかのように思ってしまう。しかし、出来事に対する意味づけは、人それぞれであり、自分次第なんだ。
例えば、楽天がリーグ優勝した一つの事実で、楽天ファンは喜んでいるが、ロッテファンは悔しがっているだろう。またおなじ楽天ファンでも、喜び方は人それぞれだ。ちょっと両手をだしてごらん」
僕は、「いったいなんだろう」と思ったが素直にジョッキから手を放して両手をさしだした。
「出来事が左手で、自分が右手だ。そう考えてみよう。出来事は起きるが、右手の自分は別に存在しているのだ。左手の出来事から、右手の自分が何を受け取るかは自分次第なんだ」
僕は、両手を眺めながら「左手が出来事、右手が自分・・・」とつぶやいた。
先生は、そんな僕の様子を見ながら、言葉を続けた。
「辛い出来事があると、ときにその出来事に自分がのみこまれそうになる。確かに辛いことは起きる。思い通りにいかないことの方が多いかもしれない。そして、出来事は変えられない。今は特に生きづらい世の中かもしれない。
でも、出来事と自分にはスペースがあるんだ。出来事と自分は別ものなんだ。
そして出来事の受けとめ方は自分でコントロールできるんだ」
「起きた出来事は変えられない。でも出来事の受けとめ方は自分次第・・・。
そうだとすると、先生、僕は今、自分に起きている出来事をどう受け止めればいいのだろう」
僕は開いていた右手を握りしめて言った。
「そうだ。『この出来事をどう受け止めればいいのだろう』この質問を自分に言い聞かせることが出来たならば、そのとき出来事と自分の間にスペースができる。出来事にのみこまれずに、主体的に生きることができる。うん、その調子だ」
先生は、にっこりとほほ笑んでそう言った。
気仙沼産のサンマだろうか、とても脂がのっていてうまかった。
先生は、美味しそうにそれを口にいれて、ビールを一飲みして話を続けた。
「出来事と自分との間にスペースができた。次は出来事をひいて眺めてみよう。その出来事を紙に書いてごらん。そしてそれを○で囲む。
例えば、A社の面接試験で、不採用になったと。ちょっと痛いが書いてみよう」
いきなり先生は、お品書きの紙をひっくり返して、胸ポケットのペンを取り出して書きだした。
「そして、少し離れたところに、「自分」と書いてこれも○で囲む。○で囲んだ出来事に対して、「自分」はどのように受け止めようか。思いつくまま、あげられるだけの選択肢をあげてみてごらん。
自分はダメだ、能力がない、運がない、そこから何かを学ぶことができないか、この会社は縁がなかった・・・
いろいろな見方があるだろう。出来事の受け止め方は、決して一つではなく、いくつかあることに気づくだろう」
ペンを走らせた後、先生は、顔をあげて僕の目を見ながら言った。
「いくつかの選択肢があるのであれば、自分にとって望ましい見方を選ぶだけだ。そう、君は好きに選べるのだから・・・」
僕は、出来事から、自動的に自分は幸・不幸は決まるものだと思っていた。そんなことは当たり前だと思っていた。
でも、違うのだろうか。今まで別の見方があることに気づいていなかったのだろうか。
僕は、先生の穏やかな目を眺めながらそんなことをぼんやり思った。
先生は、そんな僕の考え込んでいる様子を楽しむかのように間を開けて、続けた。
「『塞翁が馬』の故事を知っているかい。この故事は、出来事について、単純に割り切れないことを示している」
「あれ、えっと、馬が逃げたという話でしたっけ?」
「まあ、そうだ。昔中国に塞翁という老人がいた。ある日塞翁が飼っていた馬が逃げた。それはアンラッキーなこと?
いいえ。逃げたその馬が駿馬を連れてきた。それはラッキーなこと?
いいえ。塞翁の息子が駿馬に乗っていたら落馬して足の骨を折った。それはアンラッキーなこと?
いいえ。足の骨を折ったために、息子は兵役を免れて戦死せずにすんだ。
その時は、幸運だと思っていたことが、不運につながったり、不運だと思っていたことが幸運につながったりと、出来事は、単純にとらえられないんだ」
君がA社の採用試験に落ちたことは、この一点をとらえれば確かにアンラッキーで不幸な出来事かも知れない。
しかし、そこから、幸せな出来事につながることもあるんだ。ということは、今、悲観なんてしなくてもいいんだよ。そこからつながる幸せもあるのだから」
周囲は騒がしいはずだったが、いつの間にか、僕には先生の声だけが聴こえていた。先生は、少し目をそらして、話を続けた。
「私が昔学生のころ、私の友だちが、失恋をして「もう自分は結婚なんてできない」と酷く落ち込んだことがあった。その落ち込み方は「大丈夫かな?」と心配になるくらいだった。友だちが惚れ込んだ女性は確かに派手で見た目はよかったが、私の目から見て、「どうなんだろう」と内心疑問に思っていた。
しかし、彼は、「もう自分なんて…」と言っていた癖に、失恋後により優しくなれたせいもあるのか、すぐに失恋した女性より、彼にふさわしい素晴らしい女性に巡り合って、一緒になったんだよ。失恋が幸せにつながっていたんだ」
先生の頬が少し頬が赤く見えたのは、アルコールのせいだけではない気がした。
もしかするとこの話は、先生の友だちではなく、先生自身の話なのかも知れない。
僕は、そうとは気がつかないふりをして、先生の話を笑顔で聞いていた。
「出来事を点で捉えるのではなく、線で捉えるということなのでしょうか?」
僕は、先生にたずねた。
「そうだ。一つの出来事だけを取り出して、一喜一憂するのではなく、大きな流れの中で受け取るということだ。
「塞翁が馬」の話をしたが、君自身のこれまでの経験で、『あの辛い出来事が実は後になって活きてきた』という体験はないかな」
僕は少し考えて中学生のころを思い出した。
「あ、そういえば、中学生のころ、剣道部の試合でぼろ負けをして、悔しくて、悔しくて。でもそのことがきっかけで必死に稽古に打ち込み強くなりました」
「そうか。ぼろ負けしたという出来事が君が強くなったきっかけになっているのだね。
出来事は、流れの中で起こっている。複雑な因果の流れの中で起こっているものだ。
そして、ここが大切なところなのだが、「自分から」も出来事をつくりあげていくことができるということだ。
ただ出来事を受け取るだけのではなく、「自分から」出来事の種まきをすることができるんだ。
君の中学生の体験では、試合に負けた出来事だけではなく、その出来事を受けて君が剣道の稽古を必死になってやったことが、君を強くした原因になっている。」
そう言って、先生は出てきた肉厚の牛タン焼きに手を伸ばした。
「そうそう、元気を出したいときは、肉を食べるといいぞ。特にいい肉をだな」
といいながら美味しそうに肉厚の牛タンを先生は食べていた。
「起きた出来事をどう受け止めるかとあわせて、これから自分がどう行動をするかも自分次第なんだ。選べるんだよ。
もちろんすべての因果を支配することはできない。自分のコントロールできない予想外の出来事はやはり起きる。
しかし、その一方で、自分の意思と行動によって出来事をつくりだすこともできる。
出来事をどう受け止めるかの自由と、自分がこれからどう行動するかは自分に委ねられているんだ」
そして、先生は、少し間をおいて、僕の目をみつめてこういった。
「さあ、そうだとしたら君はこれからどう行動すればいいのだろう?」
僕は、これからいったいどう行動すればいいのだろう?
店の天井をみあげて、しばし考えたが何も思い浮かばなかった。
先生は、そんな僕の様子をみて、こう言った。
「これからどう行動するのか、それは、起きた出来事にヒントが隠されていることが多い。
それも辛かった出来事、苦労した出来事に貴重なヒントが含まれていることが多いんだ。
『起きる出来事には何か意味がある』 そう考えてみてはどうだろう。
『意味のないことは起こらない』 そう受け止めてみてはどうだろう。
これはあくまでフィクションなのだが、そう考えてみることで、過去の出来事を活かし、明日の一歩に向けて、見えてくるものがあると私は思っている。
「A社の採用試験に落ちた」
その事実に正対し、そこに何か意味を見つけることができないだろうか。
次への行動のヒントを見つけることができないだろうか。
辛い出来事、思い通りにいかない出来事は起こる。必ず起こる。
それに対してどのように受け止め、どう行動するのかが、問われてくる。
出来事にのみ込まれて、自分を否定してうずくまるのだろうか。
それとも、出来事を受けとめ、その意味をみつけ過去の出来事を活かし、主体的な行動によって出来事をつくりあげていくのか。
君がA社の採用試験に落ちたことは事実だ。これまで何社も落ちてきたことも事実だ。
しかし、それは君が何度も真剣にチャレンジし、トライし、アタックしてきたことの証でもある。
何ら自分を恥じることもない。むしろ素晴らしいことだ。これからもダメだなんて悲観することなんてない。
これまでの経験を活かして、角度を変えて、さらにチャレンジをし続ければいい。
そう、君の物語はまだまだこれからなんだから・・・」
先生は、まるで先生自身に言い聞かせるようにそう言った。
「僕の物語・・・」
胸の奥から熱いものが急にこみ上げてきた。
「そうだ。こんなところで僕の物語を終わりにしてはいけない。終わりにしてなるものか!」
右手の拳を強く握りしめて僕はそう思った。
先生は、そんな僕の様子を見て、にっこりとして軽く何度もうなずき、「よし、じゃあ、シメにずんだ餅でも食べようか」と楽しそうに言った。
(おしまい)
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