宮城県仙台市泉区・地下鉄泉中央駅徒歩4分の「あやめ法律事務所」では、2名の弁護士が、借金・離婚・不倫・相続・交通事故等の無料法律相談を実施しています。
<お電話での相談受付時間>
平日 午前9時30分~午後0時20分
午後1時20分から午後5時15分まで
メールでは24時間受付
「こんなのじゃダメだ!もう一度やり直し!」
今日もまた課長に怒鳴られた。
「私、本当はこの仕事、向いていないのかな」
新卒で生命保険会社に就職して3年目になる木村麻美は、昼間の出来事を思い出し、布団の中で天井を見ながらつぶやいた。
父が亡くなって2年が経った。それでも麻美の母親は、父親が使っていた靴やかばんを処分することができずにいた。山が好きだった父親が使っていた登山靴もまだ残っている。
あれはいつのことだっただろう。
麻美は、月夜のあかりでぼんやり見える山の風景写真のカレンダーを見ながらそう思った。
私が小学6年のころ、お父さんは、はじめて私を山に連れて行ってくれた。
途中から、とてもきつくて、辛くかった。何でこんな苦しいことをお父さんは好きなんだろうと麻美は思った。
途中、麻美がへばって休憩しているとき、父親はこういった。
「麻美、ほら周りを見てごらん。いい眺めだろう。もうずいぶん歩いてきたな。
歩けば歩いただけ新しい道が開けてくる。見える景色も変わってくる。
「お父さんな、頂上についたときの眺めも好きだけど、こうして歩く途中の景色も大好きなんだよ」
苦しくて、余裕はなかったけれど、周りの景色を眺めていると、爽やかな風が優しく、頬をなでて気持ちがよかった。
あんなに元気で強そうだったお父さん、どうして私やお母さんをおいて、逝ってしまったの。
お父さん、どうしてもっと一緒にいてくれなかったの。
どうしてもっと一緒に山に連れて行ってくれなかったの。
ずるいよ。ひどいよ。寂しいよ!
お母さん、寂しがるから、心配するから、私がしっかりしていないといけない。
涙は見せられない。強く生きなきゃ。頑張らなきゃ。
仕事が辛くても我慢しなきゃ。我慢しなきゃ・・・。
あふれてくる涙を、どうすることもできずに麻美は眠りについた。
「麻美、麻美・・・」
麻美は、遠くから、でもはっきり聞こえる懐かしい声に目が覚めた。
「お父さん、お父さんなの!」
麻美は声がきこえる方向に目をこらした。そこには、月の光に照らされている父親の姿があった。
温かい手がのびてきて、麻美の涙が流れた頬を柔らかに包んだ。
「ごめんな、麻美。辛い思いをさせてしまって、本当にごめんな」
「ううん。お父さん、戻ってきてくれたの」
麻美は首を振りながら父の手のぬくもりを感じてそういった。
「麻美。麻美は優しい子だから、我慢していろいろなことを抱え込んでしまったことだろう。でもな、辛いときは、辛いといっていいんだよ。泣いてもいいんだよ。誰かに助けてを求めてもいいんだよ・・・。
お父さん、何もできないけれど、これからもずっと麻美やお母さんのこと、見守っているからね」
「お父さん・・・」
麻美は父親の温かい手に大粒の涙を落としてそういった。
「お父さん、心配かけてごめんね。私を励ますために、天国から来てくれたんだよね。でも、もう大丈夫だよ。」
麻美の声は、父親の温かな瞳に吸い込まれていった。
どれだけの時が過ぎたのだろう。涙が流れていたはずなのに、いつのまにか麻美は笑顔になっていた。
・・・・
麻美は朝、まぶしい日差しに目が覚めると、心がとても軽くなった気がした。
そうだ、前を向いて歩いて行こう。そして辛くても見える景色を楽しもう。
お父さん、今もずっと見守ってくれいている。
「お母さん、行ってきます!」
麻美がそういって、家を出ようとすると、玄関に昨日まであった父親の登山靴が消えていた。
「よし、今度の連休に、思い切って友だちを誘って山に登ってみようかな」
麻美は、昨日とは違う玄関の光景を見て、ふとそう思った。
麻美は、雲の切れ間から差してくる朝の眩しい光を浴びながら、勢いよく玄関を飛び出して行った。
(おしまい)
お気軽にご相談ください。
お電話でのご予約はこちら
022-779-5431
相談受付時間:平日 午前9時30分~午後0時20分、午後1時20分~午後5時15分まで
メールでの受付は、24時間行っております(折り返しのご連絡は、基本的に上記受付時間となります)。
※法テラスの扶助相談が利用できる方は、そちらをご利用していただく形になります。
※お電話やメールでの相談は実施しておりませんので、ご了承ください。
※取扱い地域
仙台市、富谷市、大和町、利府町、大崎市その他宮城県全域