「夫は、どんな反応するかな」

私は、リビングのカーテンを全面的に張り替えた後、これを見たときに夫がどんな風にいうのか、想像して、一人微笑んだ。

このカーテン、夜遅くまで仕事をして疲れて切って帰ってくる夫が、家に戻って、心を癒してくれたらいいなと思って、赤ちゃんを連れて、いろいろなカーテンを見て、悩んでようやく決めたものだ。

我ながらいいカーテンにしたぞ。
夫もきっと喜んでくれるだろう。

そう思っていた。

「ただいまあ」
今日もやはり夜遅く、夫が疲れた顔をして帰ってきた。

気が付くかな、いつ気が付くかな。
そう思って、夫を見ていたら、どういう訳か、全く気付く様子がない。こんなにリビングの雰囲気が変わっているのに、気が付かない。

おかしいなあ。
しばらく見てたが、気が付かない・・・。

ついに、私は、我慢ができなくなって「何か、変わっているのに気が付かない？」とそこまで言ったにもかかわらず、夫は「え？何？」ととぼけた返事をしている。

そのとき、私の頭の奥で、ヒューズがプチっと音を立てて飛んだ。

「もう！どうしてこれが気が付かないの！カーテンが変わっているでしょ！」

と気が付いたときは、私は、夫に向かって怒鳴っていた。

「仕事ばかりに意識が向いて、うちのことを考えていないんでしょ！いつもそうなんだから！」

私は、矢継早にミサイルを飛ばした。

しかし、夫も私のミサイル攻撃に慣れているのか、「そうなことはないよ」と言いながら、懲りた様子はない。そして、「あ、あの仕事をやり残していた！」とまた仕事に出かけていくのだった。

　「どうしてこうなんだろう！こんなに素敵な部屋になったのに！」

私の怒りはなかなかおさまらなかった。

カーテンを少しあけて窓の外を眺めると、雪がしんしんと降っていた。今夜は積もるかもしれない。

酷い話だ。でも少し冷静に考えると、自分もまた仕事のことを考えていると視野が狭くなっていることもある。

そして、夫は、私が責めたときに、反撃はしないで、おおらかに受け止めてくれる。その刺激のなさが、時に腹が立つこともあるが、もし夫が私のようだったら、ミサイルの打ち合いで、きっと困ったことになっていただろう・・・。

それに、私、このカーテン、そもそも夫のことを考えて選んだのだった・・・。
夫が喜んでくれるように選んだカーテンなのに、夫を責めて喧嘩したら、何だかおかしいかもね。

そのカーテンを眺めていると、夫は気が付かなくても、我ながら素敵なカーテンを選んだなと思うのだった。それで十分かも。

よし、今度は、カーペットを変えてみるか。それでも気が付かなかったら、その時は、どうしようか？
そんなことを思うと、何だか、ひとり笑えてきたのだった。

　　　　　　　　　　　　　　　　　（おしまい）

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