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民事調停について思うこと

ハラスメント問題を切り口にして、民事調停について詳しくお話した本を書きました。調停委員側からの視点についてもお話しています。

Amazon、全国の主要書店でお求めになれます。よろしければ、ご覧になってみてくださいね。

『セクハラ・パワハラは解決できる!~民事調停という選択肢~』                     神坪 浩喜 著

労働調査会出版局 平成28年11月7日発売

https://www.amazon.co.jp/dp/4863195788/

 

民事調停について思うこと

                          弁護士 神坪浩喜

1 調停のスタンス

  私は、調停には二つの軸があると思います。一つは、調停が話し合いの場であることです。 双方当事者の合意形成をめざすところであり、当事者が相手との対話を通じて、自分で考え、自らの力で問題解決をめざし、調停委員会はそのサポート役であるというものです。 もう一つは、裁判所の考え方や判断を示すところであるというもので、調停委員会が、お互いの言い分を聞いたうえで、調停案や17条決定を示す主体的な役割を担うものです。 

 この二つの軸のどちらに重点をおくかは、事案や進行状況で変化しますが、私は、後者の意識を常に根底にもちつつ、前者の合意形成サポート、当事者による自律的解決を基本とするのがよいと思います。  

それは問題の解決にあたっては、誰かの意思に従うのではなく、自らの表現活動、相手との対話を通じて、自らの自由な意思決定に基づいて、問題の解決を試みるのがよいからです。 対話を通じて、合理的に物事を捉え、相手の立場や言い分も理解し、合理的な解決を自らの意思で選びとることができたらならば、その紛争は外形のみならず、心理的にも解決できたといえるでしょう。

 

  2 話し合いの場の設定

  調停の基本は、話し合いであり、当事者同士の自律的な解決を目指すということですから、当事者が安心して話し合いができる場を設定することがまずは重要です。

  そのためには、まず調停委員が当事者から信頼されなければなりません。信頼関係を築くことが大切です。当たり前のことですが、当事者の方に礼を持って接することが基本になります。 「申立人」「相手方」と呼ぶのではなく「○○さん」と名前を呼ぶこと、基本的に笑顔で接すること、そして話を聴こうとする姿勢を示すことが望ましいと思います。

話を聴いているというメッセージを送るには、「○○さんは、□□とおっしゃっているのですね」と要約できると効果的です。 心が開けば、言葉は相手の心に届きます。心が開かないうちに、いくらいい言葉を発したとしても、相手の心には届かないものです。 理屈の正しさも重要ですが、「この人がそう言っているのなら、間違いないだろう」と信頼してもらえると、解決可能性はぐんと高くなるものです。

  このような原則をおさえつつ、当事者の特性や価値観にあわせて、臨機応変に対応を変えて、信頼関係を築いていけるといいでしょう。

 

 3 合意形成のために

 (1)出発点―結論としての食い違いの確認

 話し合いの最終目標は、合意形成です。当事者双方の意思が合致したときに合意が成立し、調停が成立します。そこで、話し合いの場にたったときの双方の主張、出発点を明確にします。基本的には、求める結論は、申立の趣旨とそれに対する相手方の答弁で明らかにされていますので、その確認となります。出発点として、結論の食い違いの確認をすることは簡単なことですがとても重要なことです。

  申立人は、相手方に対して、いったい何を求めているのか(請求)を明確にします。 それを、相手方に伝えて、相手方がその希望に対して、どのように答えるのかを明確にします。紛争というのは、自分の期待と相手の実際とに食い違いがある状態です。相手が自分の思うとおりに、行動してくれない場合です。ただ、時に、調停の前の段階において、相手に対して、何を求めるのか伝えていない場合があり、さらには、自分自身の中でも相手に対して何を求めているのか混乱している場合もあります。そこで、調停の場において、申立人が相手に求めることを明確にして、相手方に伝えるだけで、相手も同じことを実は考えていたような場合には、その確認だけで合意形成に至ります。

 申立人の請求を確認する場合には、表向きは金銭請求となっているものの、時に金額に現れない「思い」があることにも配慮が必要です。何かの慰謝料請求事件の場合、相手に真摯に謝罪してほしい、痛みを感じてほしいといった真意があり、相手方や調停委員会から「結局お金の問題だ」とまとめられてしまうのを嫌がることもあります。また、請求の背景にある「真意」、何のためにそれを求めているのかを探ってみると、実は食い違いがなかったこともあります。例えば、先の場合で、相手方として慰謝料としての金銭は手元になくあまり払えないが、真摯な謝罪はしたいと思っている場合には、その真意を双方に確認することだけで、合意形成ができることもあるのです。 ですから、形式上の請求とあわせて、その「真意」を確認する作業は、話し合いの出発点としてとても重要です。

 

 (2)結論に影響を与える食い違いを明らかにする

 双方の結論の食い違いを確認した後は、どうしてその結論に食い違いが生じるのか「結論に影響を与える食い違い」を明らかにしていきます。ここでの意識としては、当事者双方、調停委員会の三者が、「どこが食い違っているのか」について、共通認識を持とうとすることです。当事者それぞれに、結論を導く思考過程、理由、根拠となる書類を出してもらって、先方に伝えます。イメージとしては、同じ「まな板」の上に、それぞれが持つ情報を載せていってもらって、三者が共有する、同じものを眺めるという感じです。話し合いの目標は合意形成であり、紛争というのは、お互いの言い分に食い違いがある状態でした。食い違いの原因の主なものとして、それぞれが認識している事実、情報が異なっていることがあります。

 すなわち、意思決定のメカニズムとして、人が、何かを判断する場合には、自分が把握している事実を前提として、それに自分の価値判断、人それぞれが持つ「自分フィルター」を通して、その事実を眺め、評価をして、意思決定を行うものです。ですから、判断となっている前提事実について、相手の出す事実が加わることによって、新たな判断材料としての情報が与えられ、判断が変化することもありうるのです。また、事実を相互に出し合うことで、食い違っているところだけではなく、共通のところも確認できます。共通の事実は、前提事実として、他の事実の推認に利用できますし、評価のよりどころになりえます。加えて、お互いに事実を出し合ったことで、意外に共通のところがあったりすることが確認できる場合もあり、それで先方への誤解が解けることもあるでしょう。

 

  (3)事実の食い違いと評価の食い違い

  結論に影響を与える食い違いの中には、事実認識の食い違いと評価の食い違いがあります。食い違いを明らかにする過程では、「事実と評価(意見)」のいずれの食い違いなのかを分けることです。例えば、交通事故の過失割合が争いになっている場合には、事故状況といった事実が争いである場合(停止していたか、青信号だったか等)、事故状況には争いがないもののそれに対する評価が違っている場合があります。

 事実に食い違いがある場合には、いわゆる事実認定の問題として、主張する事実を裏付ける証拠や別の事実を土台に、社会通念に照らした経験則によってその事実があったのかなかったのか判断されます。意見や評価が食い違っている場合には、どちらの意見が合理的で説得力があるかにかかります。その支えとして、法令や裁判例が参考にはなりますが、いずれも社会常識がベースとなっており、調停委員の皆さまの豊富な人生経験・社会経験が活かされる場面です。 ですから、進行としては、事実が相互に食い違っている場合には、裏付けの証拠があればそれを出してもらうように促します。同じ事実をみながら、評価・意見が食い違っている場合には、意見のよりどころとなる理由を示してもらうようにします。

  評価の場面では、評価する人の価値観、感情が絡んできます。感情の取り扱いは実に難しいところですが、感情については「無視はしないが、分けてとらえる」というスタンスでいるとよいと思います。感情に巻き込まれないように、まずは合理的理性的な見方でどうなるかをふまえた上で、当事者の感情に配慮するということです。言い換えるならば、当事者の感情に寄り添いつつも、合理的理性的なものの見方を軸にして、話し合いを進めるということです。

 そして、ここがポイントかなと思うのですが、双方の事実認識や証拠、意見と理由を出してもらう場面では、まだ評価を加えません。原則として当事者が出してきたものについて否定も肯定もしません。当事者がそういっているという事実だけを受け入れます。「○○さんは、○○とご主張されるのですね」と受け止めます。相手の主張を伝える際にも「○○さんは、○○とおっしゃっています」とあくまで相手の主張や希望に過ぎないことを伝えます。ここで、当事者に事実認識や証拠、意見やその理由を出してもらうのは、先方に判断材料としての新しい情報を提供して、当方の希望について検討してもらうためのものという位置づけになります。この場面でなぜ評価を控えるのかといいますと、ここで調停委員会が評価をしてしまうと、当事者の自律的な判断を阻害する可能性がありますし、否定的な評価をされた当事者は、調停委員は自分の言い分をよく聞いてくれない、相手に偏っているのではといった不満を抱きやすいからです。また調停委員会自体が自らの先入観にしばられて、事案全体を見渡した適切な評価ができない恐れもあります。

 

 (4)ボールのやりとり

 双方の主張の根拠となる事実、評価について「まな板」に乗せてもらって、当事者双方の共通認識になった後、当事者のどちらか一方から「ボール」=解決案を投げてもらいます。先方から出してもらった情報や先方の評価や思いをふまえた上で、最初に出した主張から変化がないかを検討してもらい、話し合いによる解決に向けた新しい提案ができないかをたずねます。 

「○○さんの出した事実から、○○の点は了承しました。また○○さんが○○と考えていることも分かりました。しかし、○○の点は、やはり理解していただきたいので、○○という解決案ではどうでしょうか?」

  という感じで、解決案を出してもらうのが理想的です。ボールを最初に投げてもらう当事者に対しては、お互いにどの部分が共通で、どの部分が食い違っていて、食い違っている部分がどのような理由からなのかを、なるべく分かりやすく説明することにつとめます。

  調停委員が、改めて問題点を整理して、それを当事者に提供することによって、当事者が、自ら解決案を提案しやすくなります。当事者が、検討し、従前より、他方当事者の主張に歩み寄った解決案が提案されたのであれば、それを他方当事者に伝えます。当事者一方から他方当事者へ、話し合いによる解決に向けた「ボール」が投げられたことになります。

  この「ボール」を他方当事者に伝える際には、それは、あくまでボールを投げた当事者の「提案」であり「お願い」であることを強調します。当事者の方は、相手の主張を押しつけられること、要求をのまされると感じることを嫌がるものです。ですから、調停の折りに触れて、私は次ぎのようなお話をします。

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 調停は、話し合いであり、この場で、誰かが誰かに何かを強制することはできません。私たち(調停委員会)が、押しつけることもできません。ここでのやりとりは、すべて希望であり、提案であり、お願いになります。自分が投げた提案というボールを、相手が受けとめれば、それで合意が成立し、解決となります。相手が投げてきたボールを、自分が受けとめれば、それで合意が成立し、解決となります。相手が投げたボールを受けとめるのも、受けとめないのも○○さんの自由です。○○さんが、自由に選ぶことができるのですよ。相手からのボールを受けとめないときは、逆に○○さんから、相手に新しいボールを投げ返すこともできます。さて、今、相手の○○さんからボールが投げられました。 それは、○○という理由から、○○という希望です。○○さんは、相手が投げてきたボールを受けとめて、合意を成立させ、話し合いを終わりにすることもできますが、いかがされますか?それとも、それでは受けとめられないとして、○○さんの方から、相手に新しいボールを投げますか?

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  この「ボールのやりとり」をする際には、基本的には、個別に話しを聞いて、一方から他方へ伝えます。このボールを伝える際には、言葉を整えて、柔らかい表現にするようにして先方に伝えることがポイントになります。当事者の生の表現は、時に思いが強く、攻撃的なものになりがちです。その言葉を調停委員は、その言葉が出てくる気持ちも理解しつつも、相手に伝える際には、ダイレクトに伝えるのではなく、表現を柔らかくして伝えるようにします。それは、強い言葉、激しい言葉をダイレクトに伝えると、「なんだと!こっちだって!」となりがちで、解決案の冷静な検討ができないからです。

  例えば、金銭請求の場面で「100万円くらい払うのが当然だ。払ってよ」等と言っている場合に相手には、「○○の理由から、100万円を支払って欲しいというご希望です」と伝えたり、立ち退きの場面で「さっさと立ち退いてよ」等と言っているような場合に、相手には「○○の理由から、少しでも早く立ち退いてもらえないかというご希望です」と伝えたりします。そっくりそのまま伝えるのではなく、先方に合理的理性的に考えられるように言葉を整えるのです。調停委員が緩衝材となって、言葉を整え、整った言葉で、相手に伝えると、相手も冷静に考えやすくなります。「アダプター」というのがありますよね。パソコンや携帯電話の電源をコンセントからひいてくるときに必要なものです。 アダプターは、交流を直流にしたりして、電流を整えて、電圧を下げるものなのですが、調停委員もあの「アダプター」のようなものかなと思います。当事者一方からの言葉を、相手が合理的理性的に考えられるように、うまく整えて、伝えることができならば、話し合いによる解決可能性は高まる気がしています。

 

(5)合意形成を後押しする

  新しい判断材料をふまえて、当事者の一方から解決案とその理由を出してもらい、他方当事者に検討してもらうという形になることが一般的な進め方です。一方当事者が投げたボール(解決案)を他方が受け取れば合意成立です。受け取らないならば、今度は、自らが合意できるボール(代替案)を投げてもらいます。

 ここでの調停委員会の役割は、まずは当事者自らが解決案を提示しやすいように、情報提供、問題点の整理といったサポートすることになります。提案の根拠となる、問題点の整理、相手の希望、その背景、共通の事実、そして、仮に訴訟で、判決をするとなれば、どういうところが問題となるのか、食い違っているのか、現在どのような証拠状況なのかについて、説明します。

 解決に向けたものの見方・考え方として、おおまかに2つのアプローチがあると思います。それは、①理屈の積み上げからどうなのか? ②全体の結論からどうなのか?です。 最終的な結論の妥当性とそれを支える理屈をバランスよく整えていくということです。

 例えば交通事故の事件では、治療費、慰謝料、休業損害等項目ごとに積算して、全体の損害賠償金額が出るものなのですが、被害者側で、慰謝料の金額については柔軟に考えられるが、過失割合は絶対に譲れないということもあります。そういったときに、加害者側で、全体の金額を重視しているような場合には、過失割合については被害者の主張にそって考えるが、慰謝料等について調整を行って、全体の金額について加害者側の希望も取り入れていくといった調整も可能になります。これは、どちらか一方だけではなく、二つとも意識してすすめるといいでしょう。事案の性質や進行状況、当事者の思い等を配慮して、公平で当事者が納得しやすい結論とその理屈を考えていきます。いきなり②の結論妥当性の視点から「ここらあたりでどうでしょう」とざっくりと言われてしまうと、いわゆる足して二で割るような解決の印象を持たれ、当事者に話を聞いてもらえないという不満が残りやすくなります。他方で①の理屈にこだわると、全体の結論はお互いにそう食い違いがないのに、まとまらないということになりがちです。 ①の理屈の積み上げを丁寧にやりつつ、②の全体からのアプローチをタイミングよくやると合意がまとまりやすい気がいたします。

  このボールのやりとりの段階では、調停委員会の評価は、控え目ではありますが、伝えることもあります。一方当事者の提案が、調停委員会の目から見ても合理的な解決案と思えるならば、合意を後押しするために、先方にその解決案が合理的なものであることを、言葉を選びながらそれとなく伝えていきます。

例えば、「申立人の□□さんは、100万円を支払うことで了承してくれないかという希望です。その提案について、ご了承されるかは○○さんのご自由なのですが、100万円ということであれば、中立的な立場にある私たちの目から見ても、○○の理由から、○○さんにとっても、決して悪い提案ではないような気もいたします。ご検討されてみてはいかがでしょうか」 というようなお話をします。

  すなわち、食い違いを明らかにし、まな板に情報をのせる段階では、調停委員会の評価は加えませんが、ボールのやりとりの場面では、調停委員会から、その案の押し付けにならないよう配慮しつつもものの見方、考え方を示して解決案の提案を後押しし、当事者から合理的な解決案がなされた場合には、先方当事者にその提案が第三者の立場からみても合理的なものであり、提案を検討してみてはいかがでしょうかと、評価を控えめながらも加え、合意形成を後押ししていくのです。慎重に言葉を選んで、ボールを受け取りやすいようにサポートしていきます。 

 

4 調停案の提案

  こうした当事者間のボールのやりとりによって合意形成が困難であれば、調停委員会から調停案を出すことを検討します。調停案を出すことについては、人それぞれの考え方があろうかと思いますが、私は、当事者間のボールのやりとりで、合意形成に至らなければ、調停案を出すことを原則にしています。調停案を出すということで、調停委員会はもとより、当事者にもよい意味での緊張感が生まれます。調停への主体的自律的参加を促進させ、ボールのやりとりの段階での合意形成の可能性も高まってきます。それに、当事者の中には、相手の提案をのむことは感情的に受け入れられないが、中立的な第三者の案、それも自分の言い分も聞いてくれた裁判所の案ならば、受け入れてもいいと思う方もおられるでしょう。 ですから、当事者間のボールのやりとりで合意に至らなかったからといって、すぐに不成立にするのではなく、調停案によって、合意形成の可能性がないかを探ることにします。

  両当事者から、調停案を提案することについて了承を得られたならば、調停案を出します。調停案を出す段階では、裁判所の調停委員会が提案するものですから、条理にかない、公正であること、証拠による事実認定と法令適用といった法的な判断であることは意識しなければなりません。提案にあたっては、評議を行い、食い違いがある点を中心に検討します。結論としての食い違い、その食い違いをもたらす食い違いについて確認の上、双方当事者が「まな板」にのせた情報を前提として、事実認定と法令適用を行い、社会常識に照らして、当事者の真意をふまえた上で、当事者間の紛争解決案として、どのようなものがよいかを検討します。

 解決案には、直線上のどの地点をとるかという解決だけではなく、直線上を離れた別の点での三次元的な解決方法がある場合もあります。 例えば、賃料増額請求の場面で賃借人が、賃料増額は絶対に受け入れられないが、一定の立退料をもらえば立ち退いてもいいと考えていて、かつ賃貸人でも「立ち退き料+立退き」がむしろ望ましいと考えている場合には、立ち退きを視野に入れた解決案を提案することも考えます。調停案提案の場面では、調停委員会は、話し合いのサポート役から、解決の道筋を主体的に示す役を前面に出していきます。「お二方がお話しされたこと、出していただいた書類をもとに、私たちがよく検討した結果、お二方にとって望ましいと思う解決案をご提案いたします」等と堂々と打ち出します。

  そして、この調停案が「私たちの」紛争解決方法として望ましいことを理解してもらうように説明します。 調停案の理由については、双方当事者の言い分や証拠をふまえて詳細にできると望ましいでしょう。  

理想を言えば、判決のように詳細に事実認定と法令適用を行って、調停案を聴く両当事者が「お互いに言い分を出しあって、裁判所がそれをよく検討して出した案なのだから、いいのだろう(仕方ないのだろう)。裁判になってもこのような結果になるのだろう」と思ってもらえることです。そうすれば、調停案にもとづく合意形成の可能性がぐっと高まるでしょう。                                        

 

5 調停の進行について

 (1)積極的に仕切る

 進行については、私は、原則として調停委員会の側で積極的に仕切っていくのがよいと考えています。もちろん主役たる当事者の同意を得ながらではありますが、事件のポイントに切り込んで、テンポよく、進めていく方が、迅速であることはもとより、当事者間の自律的な紛争解決に資すると思います。どのように話し合いをしたらいいのか不安な当事者に対して、調停委員会の側で、話し合いの土俵とルールを積極的に提示していくと話し合いは活性化し、当事者も、合理的理性的な判断によって、自らの意思決定をやりやすくなると感じています。

  (2)進行の大まかな流れ

 初回期日では「あいさつ、自己紹介、出席者確認」→「調停の趣旨説明」→「調停本論」→「今日のまとめ」→「次回までの課題・作業(検討事項、書類の提出依頼)」になります。 

続行期日においては「前回のおさらい」→「課題・作業の確認」→「調停本論」→「今日のまとめ」→「次回までの宿題」となります。

 ポイントは、「まとめ」と「前回のおさらい」を実施することです。これをやることによって、進行に締まりが出てきます。今回の期日に何をしたのか、前回の期日にどこまで話し合ったのかが明確となって、その積み重ねで話し合いを進めていくことができます。

 連続ドラマでも、前回までのあらすじがあることで、すっと今日のお話に入っていくことができますよね。 簡単なことではありますが、これをやらないと何ら進展もないままに漫然と話し合いを続けてしまって「あれ、いったい今日は何をしたのだろう?」といった困った事態になりかねません。調停では「調停経過票」という書類を作成するのですが、円滑な進行のためには、そこにきちんと「この期日にやったこと」「次回までの課題」を明記しておく必要があります。

(3)進行確認、争点確認はできれば同席とする

  「まとめ」「おさらい」「宿題」といった進行確認については、当事者双方が共通認識を持ちやすいように、できれば同席調停が望ましいでしょう。 またお互いの言い分、双方の食い違いの確認についても共通認識をもってもらうのがいいので、できれば同席がいいと考えています。もちろん当事者が同席を望まない場合、感情的対立が激しい場合には、別席で確認作業を行います。

 

6 おわりに

 調停について、民事調停官としてわずか約1年という短い経験ですが、弁護士11年の経験とあわせて、思うところを率直にお話しさせていただきました。「調停は、互譲の精神で」とよく言われますが、序盤から「お互いに譲り合ってください」と言っても、通常、当事者の方は「譲るべきは、相手の方だ」と思って調停に臨んでいるものなので、なかなかうまくいきません。 お互いに結論の食い違いにかかる情報を提供しあって、意思決定の判断材料としての事実認識や先方の意見を聴く中で、ものの見方や考え方に変化が見られるときに、自らの意思決定を変えること、相手の考えに近づくこと、すなわち互譲ができるものです。

  冒頭で、調停は、自律的な紛争解決をめざす話し合いの場であるというお話をしました。 それは、人は、一人ひとりが自由な存在であり、誰かの強制や押しつけではなく、自らの自由意思にもとづいて人とのつながりを築くことができるし、人とのつながりにおいて起きたトラブルも自らの自由意思に基づいて相手と冷静に対話しながら解決することが望ましいという理念が根源にはあります。

 しかし、紛争の渦中にいるとき、人はなかなか冷静に理性的に判断ができないものです。そのようなときに、合理的理性的に判断ができる人に、話をきいてもらい、問題点を整理してもらい、理性的で新しいものの見方、考え方を提案されると、自らも合理的理性的な判断がなされやすいのではないでしょうか。

 人は、人から影響を受けるものです。その意味で、調停委員という仕事は「合理的理性人」として全人格で勝負することを期待されている仕事なのかも知れません。とても難しく、責任の重い大変な仕事です。そんな大変な仕事をされる調停委員の皆さまに私からのお話が少しでもお役に立てれば幸いです。

 

民事調停の役割、立ち位置

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こんなときに民事調停を

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